一汁一菜をやるにあたって、「汁物はなくておかずだけでよくないか?」という問題が湧いてくる。自炊料理家の山口祐加も『自炊の壁』にて、世界のあらゆる献立を見て回った結果、パスタで終わり、ピザで終わりというような食事も多く、汁物がなくてもご飯と炒め物があれば十分になったという趣旨の発言をしている。また、献立の組み方に関して、「まずは米に合うメインを作ることを考えます。そうするとお肉の炒め物みたいなものになる。そのメインでご飯を食べることができるから、サブの一汁か一菜はご飯に合わなくてもいい」(『自炊の壁』p.215)といっており、あくまでも汁物はサブの存在で、あってもなくてもよく、おかずでご飯を食べるのがメインだ、という考えがみえる。
多くの人はそうだと思うし、全く正しい献立の組み方だとおもうけれど、僕からすれば、やっぱり汁物、特に熱い味噌汁は欠かせない。なぜなら汁物は食事のペースを落としてくれるからである。
ご飯とおかずの往復だけではろくに噛まずに次の一口を求め、うまみを貪るような食事になってしまう。動物的本能が求めるまま、ワイルドに食事をするのもかっこいいだろうが、それはもはやエs……これ以上はやめておこう。
だが、ご飯とおかずの間に熱い汁物が割って入ることで、「あっつ!」と一旦汁から口を離し、それをフーフーするアクションでワンテンポもツーテンポも食事のペースを落とすことができる。僕はここに汁物の価値を感じている。冷たい汁物であっても、ご飯とおかずの間に割って入るだけで食事のペースが落ちるから、十分仕事をしているといえる。汁物の存在によって食事という行為が、一気に文化をまとうようになるというのは言いすぎでも、少しはものを考えながら食事をとるようにはなるだろう。

かつての僕は非常にせっかちだった。特に大学生〜社会人1年目のあいだはひどかった。どこへ行くにも1時間以上はかかる土地柄、通学時間・通勤時間が長く、1秒でもその時間を短くしたいと思っていたから、一本電車が遅れるだけで非常にイライラしていた。乗り換えは常に緊張状態で臨んでいたので、ただ電車に乗るだけでも毎度精神力を消耗していた。それは食事でもゲームでもなんでも当てはまり、時間は限られているのだから、できるだけ有効に使わないといけないと思い込んでいた。もともと食べるのは早かったが、輪をかけて早くなったのはこの時期だろうか。そのうえ、社会人になってからは一層ストレスが増え、量があるものを早くかき込むようになったから、みるみるうちに太ってしまった。
その会社を辞めて時間的余裕ができてもなお、コスパ・タイパ至上主義は抜けずに、25、6歳の頃まではせっかちに物事を進めていたような気がする。このブログに載せる写真の撮影後はそれを食べるのだが、カレーが多いというのもあって、ひたすらにスプーンでかき込んでいたような覚えがある。だがある時、もうどうしたって社会のレールには乗れないな、と気づいたときを境に、すっかりせっかちさが消え失せ、ゆったりと過ごすようになった。僕が一汁一菜をはじめるのはそれからである。一汁一菜が僕にゆとりをもたらしたというよりは、ゆったりと人生を構えるようになったから、一汁一菜をすんなりと受け入れられたといえる。
それからの食事はずっとスローペース。毎度のようにフーフーと味噌汁を冷ましながら、ゆっくり食事をとる。夏でも構わず熱い味噌汁がメインだ。また、味噌汁におかずを兼ねさせることによって、おかずの調理時間をなくし、食事の時間に充てるようになった。ゆっくり食べれば満腹中枢が刺激され、満腹感を早期に感じるようになるから、食べる量が減るなんてことは今更言わなくてもみなさん知っているだろう。また、ゆっくり食事の時間をとることで、大量にお腹に流し込まなくても、「もうこれでいっか」と切り上げることができるようになった。
ちょうどよいところで食事を切り上げると、「ああもう食べられない」と満タンの腹を抱えて横になるのではなく、これからもう少し動いてみるかという気にもなれる。僕は夕食を一汁一菜にしているが、この適度な腹の具合が夜の活動への意欲を刺激し、ゲームや読書などの時間が充実するようになったとおもう。急いでご飯をかき込むのは決してタイムパフォーマンスがいいとはいえないのではないだろうか。
食事のペースが落ちたことで体重が落ちたのはいうまでもないだろう。いまや学生時代のレベルまで体重が落ち、またそれを維持することに成功している。前回「悩みがない」なんて言っていたが、訂正する。太っていたときに買った服が全部ゆるゆるになって困っている。
手早く食事を済ませるのはよいが、それで浮いた時間はいったいどこに消えるのだろう。今、あらゆる手練手管を用いて、あなたの浮いた時間をつけ狙う連中が跋扈している。その魔の手を遮るのは、熱い汁物かもしれない。
関連百汁百菜
今回の一汁一菜

2026/01/27分
前回の粕汁の余り
自家製なめ茸
大根の梅甘酢漬け
味噌きゅうり
粕汁はつい具が多くなるから、2杯分の水のつもりでも、3杯分ぐらいできてしまう。
参考文献
・佐々木典士 山口祐加『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』ダイヤモンド社






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