0046 土地に合う、リズムが合う

百汁百菜

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 中学だか高校のとき、同級生が「ここは田舎だから〜」なんてことを自虐的に言ったとき、ひどく違和感を持ったことがある。というのも、僕らが住んでいるところはとても「田舎」とは呼べないからである(せいぜい「郊外」だ)。マンションはあるが高層ビルは特になく、山に囲まれ、市街地から1km程度出れば田園風景が広がってはいるものの、電車は15分に一度来るし、全国指折りの集客数を誇るショッピングセンターがあるからモノを買うには全く困らない。都会にあるような洒落たカフェやショップなんかは当時はほとんどなかったが、10年ほど経った今ならUターン、Iターンしてきた人々の手によってポツポツできはじめている。まったく、僕らが住んでいる土地が「田舎」だったら、山奥で電車もなく、コンビニの影もなく、人間よりも野生生物によく出くわすような場所はどうなるんだとおもったものである。知らないからこそ、こんなにも恵まれているにもかかわらず、僕らが住む土地を「田舎」と断じてしまうのである。人は空気に感謝しないし、日本人は綺麗な水に感謝しないように、当たり前にあるものの素晴らしさを忘れてしまうのだ。ただ、相対的に見れば、「田舎」であるとはいえるこの土地の若者たちには、やはり都会への憧れやコンプレックスというのが渦巻いているようにもおもえた。

 だけど、そりゃあ、若者だからしょうがない。流行の先端、モードを追うならやっぱり都会である。僕だって、当時は大阪梅田や神戸三宮に出るとなればワクワクしたものである。大学のときは大阪駅が定期券の範囲内だったため、勇んで梅田ダンジョンの攻略に乗り出したものである(そのときのおかげで、今でも梅田の地下では迷わない)。それでも、「庭」と呼べるような親しみはついぞ持てなかった。どこまでいっても、梅田にいる僕はストレンジャーだったのだ。
 この土地から、みんなこぞって都会に出ていくが、僕はとてもついていけなかった。都会にいると疲弊して、ホームタウンに帰ってくると安心する。常に都会に身を置くなんてことはとても考えられないし、とくに憧れも欲しいものも都会にはない。都会に出るとしても、半年か1年に1度くらいでいい。そんな距離感で付き合っていたい。とくに近年さかんな梅田の再開発は、さらに僕を梅田から遠ざける。

 僕が今住んでいるのは、コンビニに行くのに自転車はおろか、自動車に乗るのを検討するような土地である。でも、あるだけ恵まれているし、こんな付かず離れずの距離がいい。行きたいとおもってすぐに行けてしまうと、欲望に歯止めが効かなくなる。身の回りの便利なものが、「別にいいか」と諦められる距離にあるのは、僕にとって都合がいいのだ。

 父の実家の畑に通うようになって、田舎といえば田舎だが、それでもまだ完全に田舎とは呼べない場所をよく巡るようになった。「トカイナカ」とかよく言われる場所である(このような呼び方はあまり好きではないが……)。たとえば、兵庫県西脇市。「日本のへそ」を自称して「日本へそ公園」までこしらえてしまうような場所である。ここはちょっと丘に登れば街を一望できるほどのこぢんまりとした感じがとてもよい。ほかにも、同県丹波篠山市も行くことが多い。丹波篠山市は黒豆で有名であり、季節になるとそれを買い求めにやってくる観光客の車で高速道路の出口が非常に混雑するような場所だから、知っている方も多いとおもわれるが、そんな丹波篠山市の都心部よりも、隣接する市との間にあるお店に注目したりしている。

西脇市の「CINEMA COFEE ROASTERS」はおすすめのコーヒーショップである

 こうした場所にあるお店にいると、時間に対しての行動の密度が引き延ばされ、やっていることの割には時間が経っているような感覚におちいる。カントふうに言うならば、「ぜいたくなまでにじぶんを濫費している」時間である。タイパとは対極にある、時間の無駄遣いである。ときに、こんなにぜいたくな時間の使い方をしていいのかとふとおもってしまうが、そうおもってしまうこと自体、タイパ志向(思考・嗜好)に冒されている証拠である。
 限られた命の時間なのだから、行動の密度を上げて、精一杯詰め込んで生きていきたいというのもわかるが、僕自身は人生の意味なんてものをとくに追い求めていないから、できるだけゆったりと時間を使いたい。そうおもえるのも、健康であればこそである。そして、その健康を維持するためには、僕は都会に身を置かないほうがいいというのがわかっている。もともとせっかちだった僕を鎮めてくれるような、この土地のリズムに合わせてこれからも生きていく。

関連百汁百菜

今回の一汁一菜

2026/02/18分

キャベツ・きのこ・油揚げの味噌汁
鮭フレーク
わさび椎茸の佃煮

参考文献

・熊野純彦『カント 美と倫理のはざまで』講談社学術文庫

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