そろそろハーブカレーの季節です【水野仁輔著:『やさしい!さわやか!新感覚! ハーブカレー』レビュー】

コラム

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今度は「ハーブカレー」である。とうとう皿の中からいわゆる「スパイス」が消えた。
「ハーブカレー」は、融通無碍にカレーと遊ぶ水野仁輔氏による、新基軸のカレーである。
世間が「スパイスカレー」の版図を広げんと既存のルーカレーとの勢力争いに汗する中、煮込むだけで作る「ハンズオフカレー」の世界を提示した水野氏。氏はさらに軽やかな身のこなしで「ハーブカレー」を繰り出してきた。時と共にテクニックの放棄に進んでいるのが、辿ってきた道のりを感じさせる。

とうとう玉ねぎ炒めどころか、玉ねぎ自体を使わなくなった。代わりに長ネギを使う。トマトも基本入らない。そして、「スパイス」と聞いて皆がイメージする粉のスパイスを使わないレシピが飛び出してきた。それでも、「スパイス」という大きなの輪の中に「ハーブ」が含まれているから全く問題ない。
香りを楽しむ炒め物とも煮物ともつかないあの料理の要件は満たされている。
だいたい、粉のスパイスよりもハーブなりフレッシュな香味野菜(これもスパイスといっていいだろう)が幅を効かせるタイカレー(現地ではゲーン・〇〇)を、我々日本人はカレーの仲間として受容してきたのだから、今更何もいうまい。

そんな「ハーブカレー」の世界へ、2年ほど遅ればせながら飛び込んでみました。

※無論、水野氏がnoteで研究過程を公開したり、スパイスカレー関係の著書の中で玉ねぎの調理方法に関して穿鑿の限りを尽くした上での「ハンズオフカレー」、そして「ハーブカレー」であるから、ただ単に「玉ねぎやめました」ではないのは留意されたい。

『やさしい!さわやか!新感覚! ハーブカレー』を読む

『やさしい!さわやか!新感覚! ハーブカレー』は家の光協会より2023年5月に出版された水野仁輔氏の著書です(一体何冊目なんだろう)。この本の存在は出版直後より知っていたものの、当時カレーへの情熱を失っていた僕はカレーに関するあらゆることから距離を置いており、またハーブが容易に手に入らないのがネックとなって読まないでいました。

しかし、去年(2024年)から話が変わってきます。家庭菜園を始め、野菜のコンパニオンプランツとしてハーブを植え始めたことで、ハーブなら自分で育て、増やせるんだだと気づきました。

※コンパニオンプランツとは……
近隣に植えることで何らかの好ましい相互作用を期待できる植物同士の組み合わせ。例えば、トマトのそばにバジルを植えると害虫除けになるほか、バジルが水をよく吸うので、乾燥を好むトマトの理想的な環境になる云々。ウリ科のそばにマメ科を植えるとよく育ち、ネギ科を植えると土壌の病原菌を減らすといった組み合わせもある。

ここからは一瀉千里……とはいかず、本自体は2024年の夏頃に買っていたものの、ハーブを植えた数が少なく、とてもカレーにどっさり使える量を確保できなかったのです。その反省を生かし、2025年度は至る所にハーブの種を蒔きました。いよいよ初夏になり、去年秋から植えたミントが冬を越えて息を吹き返し、バジルやコリアンダーも育ってきた段階で、初の「ハーブカレー」に挑戦です。

「ハーブカレー」5つのメソッドとは

この本では4つの「ハーブカレー」メソッドが紹介されます。

1.ハーブを刻んで入れる
2.ハーブペーストを作る
3.市販のカレーペーストを使う
4.ハーブをそのまま入れる
5.ドライハーブを入れる

メソッド3.の「市販のカレーペーストを使う」は、そんなのありかよ!と思いましたが、そりゃあ、そうそうハーブ買ってきて、ペーストまで作ってとはいかんわなとなり、そういった層への配慮を欠かさない姿勢が伺えます。一捻りあるレシピばかりなので、市販のカレーペーストレシピと侮るなかれ。

ともあれ、やはりこの本の眼目は、育てたり買ってきたりした「ハーブそのものを使ってカレーを作る」こと。
この本では粉のスパイスはカレー粉ぐらいしか登場せず、あとは少々ホールスパイスが顔を出すだけ。スパイスを揃えなくても、ハーブを揃えればスタートできます。
いやいや、ハーブも十分ハードル高いだろうと思われるかもしれませんが、ハーブは自前で調達できます。種を買ってきて蒔けば育てられます。

スパイスは現地で育てる人、食材輸入業の人、船で運ぶ人、店まで配送する人……さまざまな人の手を介さないと手に入りません。また、一度買い込むとスパイスのビンや袋が棚を占拠します。
それに比べ、ハーブはより「消え物」の側面が強く、一挙に使い切れる(または、枯れてしまう……)のでいつまでも棚を占拠することはありません。育ちゆく葉、花を眺める楽しみもあります。理想は畑なり庭で育てることですが、コリアンダー、バジル、ミントなどはプランター、植木鉢でも育ちます。ミントなんかは育ちすぎるので逆に植木鉢がいいですね。

土が嫌!虫が嫌!という人は……知らん!

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ハーブカレーを作ろう

レシピは家の食材と相談して、p.34〜の「鶏肉となすの”まろやかな”ハーブカレー」とp.39〜の「鶏肉とたけのこの”辛口”ハーブカレー」を合わせて二で割ったものを作ることにしました。このチョイスはメソッド2.「ハーブペーストを作る」から。庭で採れたてほやほやのハーブの香りを生かすならやっぱりこれでしょう!

ただし、住んでいる地域的にも長ネギ(白ネギ)があんまり手に入らないので、たまたま冷蔵庫にあった紫玉ねぎを使いました。先に述べたように「玉ねぎ自体を使わなくなった」ことが「ハーブカレー」の特徴なのですが、すみません……。それでも美味しく作れることは保証します。

庭から採れたてのミント(スイスミント)、摘心と間引きついでに採ってきたバジル、まだ育ち始めなので控えめに採ってきたパクチー。これらを合わせて20gほど。

本の中ではハンドブレンダーを使っていましたが、ないのでフードプロセッサーを使いました。ハンドブレンダーを使うよりもハーブの刻み具合がやや荒めになりますが、存在感が残るのでこれはこれでよいのではないでしょうか。

調理は至って簡単。玉ねぎ炒めもトマトの水分飛ばしもありません。次々材料を鍋に入れて煮込んでいくだけ。旨みはココナッツミルクやブイヨン、ナンプラーで補っていきます。メソッド1.「ハーブを刻んで入れる」の応用でカレー粉を補助輪としてティースプーン1杯ほど投入したのですが、本当は入れません。我が家にはカレー粉が余って仕方ないのです。初めて作るのに勝手にアレンジしまくってるな、自分。

とあれこれ御託を並べてきましたが、ハーブペーストを入れた時に立ち昇る香りの鮮烈さには、あなたもきっと驚きます。にんにくのズシンと響く香りからハーブの突き抜ける香り。きっとこれは未知の世界が拓けるはず……!

さてさて完成です。調理の時間よりも、準備のほうが時間かかりましたね。ココナッツミルクの缶を開けて小分けにしたり、フードプロセッサーを使った後始末をしたり……本当にカレーの世界(この場合ルーのカレーは除く)はテクニックが要らなくなったのだと感慨深いです。

味見の段階から、これまでにないカレーに期待が膨らむばかり。では、実食します。

口に含んだ瞬間駆け抜けるミント!ミントとカレーって、こんなに相性がよかったのか……。
遅れてパクチーが顔を出します。まだ育ってないからと控えめに入れたのにきっちり主張してきます。バジルは結構穏やかだったかな。ペーストに入っているにんにく、しょうがが香りの土台を作ってくれているから、ハーブの香りが引き立ちます。まろやかなココナッツミルクと、やわらかさの中に鮮烈さを残すハーブの対比が楽しくスプーンが止まりません。
補助輪程度に入れたカレー粉は、具材の臭み消しぐらいに存在感を隠し、あくまでハーブが表に出てきます。これは、紛うことなき「ハーブカレー」です。ハーブでカレーができちゃった。

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おわりに:ハーブカレーは気持ちいい

カレーは食後の余韻に浸るのもまた楽しみの一つではあるのですが、昼に食べたものが夜になっても「コンニチハ」するのはあんまり嬉しくないです。
でも、ハーブカレーはスパッと余韻が切れるのがいいです。食べる前も、途中も、後も、とにかく気持ちいいんです。
また、自ら体系化して世に出したカレーの「ゴールデンルール」を一旦隅に置き、新しいカレーの表現方法を探る水野仁輔氏の姿勢も気持ちがいい(外から眺めている分にはそうだが、本人の中には逡巡もあっただろうと想像する)。

ハーブの入手性、そしてその香りで人は選ぶだろうけど、こんな気持ちのいいカレーを知ってしまったからには、もう後には引けません。この夏はハーブカレー漬けに決まり。そのためには、まずハーブをしっかり育てるところから。

おっと、ハーブカレーは決して春〜夏だけのものじゃありませんよ。メソッド5.「ドライハーブを入れる」があるじゃないですか。そう、冬に備えて夏のうちからドライハーブの準備もしておけってことですね。

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