僕は寝るのが好きである。「三大欲求」というのは日本人が勝手に言っているだけらしいけど、それに倣うならば、僕は一番睡眠欲が強いと思う。季節の変わり目なんかは、いつまでも寝ていたくなる。暑い→寒いときは布団にこもりたくなる、というのはみなさん了解してくれるだろうが、寒い→暑いときでも同じようにずっと寝ていたくなる。だから今の季節(3月)はたいへん眠い。僕は新卒で入った会社を1年と少しでやめているが、それは眠れなくなったからである。一度抑うつ状態からの不眠になり、営業車の運転中にあわや死にかけた(幸い、他人を巻き込むようなことはなかった)。だから僕は非常に眠りを大事にしている。
もう4年ぐらい前になるだろうか。そんな僕の前に、前々回に少し触れた、僕を冷凍餃子屋の商品開発に誘ったオジサンが現れた。そしてこのオジサン、ほとんど寝ていないのである。ヨーロッパのどっかで不動産をやっているらしいのだが、道楽か何かは知らないが、日本に戻ってきて飲食店のコンサルじみたことをあちこちでやっていた。単純な仕事の多さに加え、ヨーロッパに残したスタッフとのやりとりのため、深夜でも起きているらしい。
寝不足でパフォーマンスが落ちているのは傍から見てわかるが、そんな状態でも仕事はこなすから、ちゃんと寝ていたらどれくらい大きな仕事をしたかわからない、そんなオジサンだった。
このオジサンは父君を急に亡くして以来、「いつ死ぬかわからないから、今できることをやろう」と思って、睡眠時間を削ってまで仕事に打ち込むようになったという。僕もまさに運転中に死にかけたことから、いつ死ぬかわからないことは実感としてもっていた。その上での無常感というのは、僕もオジサンも共有しているようではあったが、行動の出力は真逆であった。育った時代の差か、テストステロンの差なのかは知らないが、とにかくオジサンは僕に対し、無理をしてでも働いて金も女も勝ち取れというような価値観を吹き込んできた。そのときすでにそのテのことを捨ててしまっていた僕にはまったく響かなかったのだが……。
あのオジサンのように、わざわざ睡眠を削ってでも成し遂げたいようなことはなにもない。だから僕はちゃんと寝ることにしている。いつ死ぬかわからないけど、むざむざ死にに行くことはないとおもっている。

だから、ちゃんと寝られる環境を整えてきた。自然に、眠りに落ちることのできるように。そしてあれこれ試してまずたどり着いたのは、全体に突起が配された、体圧分散型の高反発マットレスである。かつては折りたたみベッド+普通の敷布団でも平気だったのだが、23〜4歳を超えたころから、折りたたみベッドが傷んだというのもあるが、腰〜尻の部分が凹んでしまい、次第に腰の痛みを感じるようになってきてしまった。本来腰を休める時間のはずなのに、かえって腰を痛めた。この経験から、深く沈む低反発マットレスは僕の身体に合っていないだろうというのは感じていた。そんなときに見つけたのが体圧分散の高反発マットレスである。腰の部分に重みが集中して腰が痛くなるのなら、その重みを分散してしまえば解消すると考えたのだ。
この読みは当たって、それ以来、腰痛は一切なくなった。低反発の包み込むような寝心地が皆にとってよいとは限らないことを知った。折りたたみベッドもさすがにやめて、分厚いマットレスを備えたものに変わったから、より盤石である。
枕についてはさほどこだわりがなく、よくある頭の部分が凹んだものにしているぐらいである。高さ調節ができるもので、一番低くなるようにセッティングしている。昔は高いほうがいいとおもっていたが、首の痛みを感じるようになってからは、できるだけフラットになるように、低い枕を選んでいる。
照明の調節というのも睡眠には重要である。僕はあるときから、自分の部屋の明かりをスマート照明を複数組み合わせたものに切り替えて、自然と寝たくなるような仕組みをつくることにした。
照明にあまりこだわりのない日本人は、ついついシーリングライト1つで部屋全体を照らしてしまうが、これでは眠たくなるムードの演出は難しい。僕はスマート照明のアプリを使って、決まった時間になったら明かりが暖色に変化し、また徐々に暗くなるようにセッティングしてある。自分で照明をわざわざいじるのであれば、いつまでも起きていようとしてしまうから、勝手に部屋が暗くなっていくようにセットすることで、自分に諦めをつけさせているともいえる。また、スマホも日をまたいだら画面が白黒になるようにしている。さすがに白黒になったスマホを操作する気にはなれない。
スマート照明にしろ、白黒画面のスマホにしろ、いちおう設定はすぐに解除することができるが、わざわざそれをしてまでやることなんてない。そう言い聞かせて素直に寝ることにしている。
睡眠状況はApple Watchを使って確認している。寝覚めのいいときは大抵深い眠りについている時間が長く、飲酒した日はだいたい眠りが浅い。そんな気分と実際の睡眠の感覚をすり合わせるためにも、日々アプリでチェックしている。僕はAutoSleepというアプリを使っているが、僕が買ったときよりかなり値上げしてしまっている。今ではiPhoneデフォルトのヘルスケアアプリが進化しているし、ポケモンスリープという選択肢もあるから、これから導入するならば、そちらを利用されたい。

スマホをはじめ様々なコンテンツが、スキマ時間だけでなく、睡眠時間までも奪おうとしてくる。さらには「睡眠時間を削ってより有意義な時間を!」なんていうトンデモ言説が飛び出し、後天的にショートスリーパーになれるようなトレーニングを受けようとする人もいる。それに対抗するように、睡眠学の大家の発言も増えてきて、睡眠の重要性を説いてくれているのは頼もしい。でも、いくら科学的に正しかろうが、自分の信念と衝突したとき、人はそれを受け入れない。いくら寝ることが大事だと言われても、それが無駄な時間と切り捨てようとする人は現れ、またそれによって得た(かどうかは分からない)社会的な成功を誇る人と、それに憧れる人は絶えないだろう。
今でもビジネスマンを対象にしたYouTubeチャンネルでは、睡眠の研究者が「寝ろ」という動画を取り上げる一方で、寝ずにバリバリ働いていた元証券マンやコンサルなんかがカッコいいという空気が流れている。一見節操がないように見えるが、実は共通の価値観がこれらを貫いている。それこそ「生産性」であろう。機械に向けるような物言いを人間に向けてしまっているのだ。僕はあいにく動物なので、機械として生きるのはごめんである。
関連百汁百菜
今回の一汁一菜

2026/01/30分
さつま揚げ・白菜・にんじんの味噌汁
大根と京菜の漬物
自家製なめ茸
生協で手に入る大根と京菜の漬物はかなりうまい。







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