作りたくなる。また食べたくなる。そんな料理が集まった「ミニマル料理」【本紹介】

コラム

はじめに

「孤独のグルメ」では、主人公の井之頭五郎が「こういうのでいいんだよ」と口にすることがあります(漫画でも言うし、ドラマでも言う)
昔ながらの味わいであったり、シンプルで飽きの来ないもの。あるいは基本を外さずに、ド定番をまっすぐに捉えたものに対し、あなたも「こういうのでいいんだよ」と思ったことはきっとあるはず。

稲田俊輔氏の本、「ミニマル料理」は、まさに「こういうのでいいんだよ」が詰まった料理本であります。

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こんにちは。ハセガワタクミ(カルダモン26)です。
今回は、稲田俊輔さんの料理本「ミニマル料理 最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる現代のレシピ85を読んだら非常に面白かったので紹介します。

とはいうものの、最初にこの本を見たとき、正直ぎょっとしてしまいました。
最近よく聞く「ミニマル/ミニマリズム」という言葉に「料理」がくっついていて、なんだか意識が高いのかな?と思ったのもさることながら、表紙のミニマルで凛としたシュウマイの佇まいと、文字がぎっしりの赤い帯……
「自分が買っても大丈夫な本なのか……?」とちょっと心配になりました。

帯の3つの条件

でも、いざ本を開くとそれは杞憂に終わり、軽妙な筆致で一気に読み終えてしまいました。
そして、「まずは何を作ろうか」と腰を上げること請け合い。

というのも、紹介されているレシピは、そのほとんどが、何かしら家にあるもので作れて、しかも、必要とされている材料も少ないから、とにかく「作り気になりやすい」のです。
そして、作ってみると、「これだけでもこんなにおいしかったっけ?」と驚くはず。

とりあえず帯に書かれた3つの条件に当てはまる人なら買って損なし。

帯の3つの条件(「ミニマル料理」帯より引用)
①そこそこ料理をする、外食もする、食に対して比較的貪欲である。
②料理には不慣れだが、「手づくり」に対する憧れがある(しかしそれは自分にとってハードルが高いと思っている)
③かつての家庭料理の少々素っ気ない、しかし凛とした味を懐かしく思い出すことがある。

決してみんなに当てはまるような内容ではありませんが、もしこれにちょっとでも引っかかるのであれば、きっと刺さるはず。
今回はそんな「ミニマル料理」をご紹介します。

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他の料理本と何が違うのか

過剰な味付けに一石を投じる

「家庭でもプロの味」を謳う「○○入れるだけ調味料」などの、ありとあらゆる調味料があふれ、複雑で、ときに過剰ともいえる味わいの料理が蔓延る今、「最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる」方法が記されたこの本は、無駄を削った、おいしさの芯を捉えるレシピで構成されています。

そのアプローチのひとつとして、かつて家庭料理に存在した、あるいは家庭向けの料理本に記載されていた料理へのリスペクトがあります。
それらの味わいはたいていシンプルで、素朴な味わい。だけれども、食材や調味料の味わいがくっきりと力強く感じられるもので、「素直においしい」と思えます。

とはいえ、単に「昔は良かった」といって当時のレシピをそのままにするのではなく、郷愁を誘いつつも、素材の質も、調味料の質もそれぞれ高まっている現代に合わせつつ、稲田氏らしく、定量化されたレシピとしてアップデートされています。

「料理に不慣れな人」でも計量すれば大丈夫

これはこの本だけでなく、稲田俊輔氏のレシピ本の特徴なのですが、本当に好きなだけ入れてもいいもの以外は「適量」の表記が排され、全ての材料・調味料が計量されています(多くはグラム単位)

「いちいち計量するなんて」と思われるかもしれませんし、「料理に不慣れ」ならなおさらと思われるかもしれませんが、毎回ブレる味付けや、味付けの失敗で一喜一憂するぐらいなら、きっちり量って安定した味わいを作るほうがよいと私は考えています。

「料理に不慣れだけど、手作りに憧れがある人」に対してこの本を稲田氏が薦めているのは、計量することで、ブレのない味わいを作ることができるほか、まずは、稲田氏が考える正解を知り、そこから自分好みにアレンジしてほしいという考えがあるのではないのでしょうか(あくまで私の想像ですが)

また、これは私の考えですが、そうして自分の中に味付けの軸を持つことで、ネット上の玉石混淆なレシピから、よいものを見つけ出す目が養われると思います。

単純に本として面白い

エッセイや最近は小説まで手掛ける稲田氏の文章は、ロジカルな味わいの説明とユーモアのバランスが非常によく、サクサクと読み進められてしまいます。
130ページ以上もあるのに、豊富な図解と軽妙な筆致で、私が最初にこの本を読んだときは2時間もかかったでしょうか。

赤い帯の威圧感とは裏腹に、「気軽に読める本」として、ついつい手が伸び、今晩のおかずを考えるのが楽しくなっています。

料理本としてはもちろんですが、単純に本として面白いのが、この本のズルいところです。

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そんな「ミニマル料理」レシピの中から、早速いくつか作ってみたので感想を書きます。

実際に作ってみた

帳尻合わせワンタン

最初に作ったのは、表紙にもなっている「基本のミニマル焼売」からの展開であるワンタン。

なぜ焼売ではなくワンタンかといえば、すでに「dancyu」2022年1月号「新しい家中華」(外部リンク)内で紹介されていた稲田氏の焼売を作ったことがあるから。

ちょうど先日上げた「キャベツのシュウマイ」で使った焼売の皮が余っていたので、本を読み終えると早速作りました。

焼売を作ると余りがちな皮。
これを使いきるためのレシピとしての「帳尻合わせワンタン」でしたが、このために肉ダネを作ったのはご愛敬。

稲田氏の肉ダネは何回か作っていますが、やはり美味い。
あれこれ入れないからこその、力強い味わい(これが「凛とした味わい」か!)があります。
タレの酢は黒酢を使い、ブラックペッパーや花椒入りのラー油を適宜かけながら楽しみ尽くしました。

基本の昔カレー

もちろん、稲田氏といえばのカレーのレシピも掲載……なのですが、ちょっと様子が違います。
なんと、往年の「黄色いカレー」を作れるレシピが載っています。

これを作るなら、「赤缶」が似つかわしいでしょう

どシンプルな具材から繰り出される昔カレーは、一口頬張ると野菜の甘みがわっと押し寄せ、そのあとカレー粉の香りが花開いていく味わいは、昔を知らないけど、こういうのでいいんだよと言いたくなります。
食べ終わるとすぐにまた食べたくなり、おかわりを身体から欲するような感覚が生まれる……これが家庭料理だよなと再確認した逸品です。

カレー好きなら、この原点の味、抑えておくべし。

だけスパ

これだけ?と思うほど少ない材料(材料欄は3つ!)ですが、これで必要十分だと思い知らされたパスタ。
これまたちょうどほうれん草があったのでほうれん草の「だけスパ」にしました。
少し塩分強めで茹でたパスタに、ちょっと焦がし気味のバター、そしてほうれん草の甘み……本当にこれだけで美味しいのです。

「だけスパ」の章は後半ということもあり、稲田氏の筆が乗っているのか、全体的にテンションがおかしい(褒め言葉)。

あらゆるものを削ったミニマルなパスタが続きますが、「概念明太子スパ」でとうとう明太子がいなくなったときには続きが読めなくなるぐらい笑ってしまいました。

限界ラーメン

水と醤油とその他諸々で作る、「ラーメンと感じられる限界」を攻めたようなレシピ。

一口すすれば、「ええっ、ああ、ラーメンや……」と感嘆しました。

スープを沸かしているときは「まさかぁ~」と疑っていたのですが、ゴメンなさい。これはラーメンです。

書いている今気づきましたが、「帳尻合わせワンタン」を載せるとまた旨そうです。
ほかにも、排骨麺などの具材を載せるときのベースの麺として最適。おいしいけど、「旨すぎない」からこその魅力があり、まだまだ楽しみは尽きません。

ほかにも、サッと作れるような野菜の箸休めや、ステーキソースにフレンチドレッシングなどのタレ類、さらには、昔ながらの懐かしい“洋食”などのレシピも多数掲載。

痒い所に手が届くので、あらゆるシチュエーションで、まさに一生使えるような一冊になっているのではないでしょうか。

おわりに

料理本を買っても、「こんなん作れへんわ」と結局作らずに本棚の奥で腐らせる……ということがしばしばあると思われますが、「ミニマル料理」のレシピにはそんな心配全くありません。

上で作ったレシピは、いずれも「ちょうど〇〇があるから」作りました。
「必要」とされているものが少ないがゆえ、気楽に試せるレシピばかりです。
そして、それらはかつて「家庭の味」として親しまれてきたもの(のアップデート版)

「家庭の味」として毎日食べるのであれば、飽きのこない、シンプルな味わいがよいというのは実際に作って食べて、非常に納得感のあるものでした。
それを踏まえ、改めてこの本をおススメしたいのはこんな方々です。

「あの味をもう一度」と思う方には超おススメ。食への探求心が強い方にも超おススメ。「これから手作りの料理を作りたい」という方にもおススメ。
 玉石混淆なネットのレシピに惑わされたくないのであればなおさらです。

決して、みんなにおススメはできないかもしれないけど、クリティカルヒットする層がいくつかある……そんな本だと思いました。

そして、レシピを発表している身としては、「本当にこれは必要な調味料なのか」と自分のレシピを省みるきっかけとなった一冊でした。玉石の“石”にならないよう精進したいと思います。

ここまでご覧いただきありがとうございます。

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