はじめに
スパイス=「辛い」という固定観念。
こんにちは。ハセガワタクミ(カルダモン26)です。
今回はグルメ番組のカレー特集を見ていたときに思ったことをお話しします。
さて、皆さんは「スパイス」と聞けば、次に何を思い浮かべますか?
「カレー」?「スパイシー」?「インド」?
……「辛い」?
スパイスと聞けば「辛い」と思われる方は結構多いのではないでしょうか。
でも、スパイスの多くは別に辛くありません。
「辛い」スパイスだらけではない
「辛い」といえるスパイスは、世界のスパイスの中でも1/5以下と言われています。
その他のスパイスは、多少の刺激感はあれど、「辛い」ものではありません。
ですが、テレビなどのメディアでは、スパイス(カレー)を紹介するとき、枕詞のように「辛い」がくっついてきます。
近年のスパイスカレーブームもあって、雑誌ではマシになったかと思えば、テレビでは依然、スパイス=「辛い」のまんま。
この前、長寿グルメ番組で、カレーの特集が組まれていたとき、カレー屋さんのこだわりを紹介するシーンでナレーターが読み上げたのは「『辛さ』は10何種類のスパイスでつけている」ということ。
「そんなわけないやろ!」
私はテレビの前で思わず叫びました。
カレーのこだわりとして、「甘」と「辛」のコントラストを説明する文脈であったとはいえ、スパイスの「辛い」面だけを強調しすぎた言い回しです。
同様のイメージを伝えるメディアは多く、それが繰り返し発信され、無意識のうちに刷り込まれていくので、皆さんがスパイス=「辛い」と思ってしまうのは仕方ないことなのです。
かくいう私も、スパイスカレーを始めるまで、スパイス=「辛い」と思っていました。
ですが、この記事を読んだあとは、「スパイスには、辛いものもあるが、多くは辛くない」という認識にあなたも変わるはず。
まずは、スパイスの働きについて、少し見てみましょう。
スパイスの働き
スパイスの働きは大まかに、「辛みづけ」「香りづけ」「色づけ」の3つに分けられます。
また、スパイスの中には、これらの働きの中から、複数の働きを兼任するものもありますが、ここでは、メインの働きの際に名前を挙げます。
ここからは「スパイスの科学」(著:武政三男)という本を参考にしながら、スパイスの働きを見ていきたいと思います。
辛みづけのスパイス
「スパイス」といえばコレというイメージが強い「辛み」ですが、先に述べた通り、世界にあるスパイスの中では1/5以下といわれています。
「辛みづけのスパイス」の例を挙げますが、日本で手に入って使われるもののほとんどをここで挙げてしまうことになるぐらい、数は多くありません。
辛みづけのスパイスの例
「辛み」の筆頭格である唐辛子(品種がめちゃくちゃ多いが、「種類」としては1つ)は燃えるような辛みを感じさせ、辛子(マスタード)やわさびはツンと鼻にくる辛みを感じさせます。
花椒や山椒の痺れる辛みや、ブラックペッパーのピリッとした爽やかな風味を感じる辛み、さらには、しょうがのピリッとしつつも温かみを感じる辛みなど、「辛み」と一口に言っても、種類がいくつもあるのが特徴です。
ほかにも、生のにんにくや玉ねぎの香味感と共に来る辛みや、大根が持つ辛みも挙げられます。
香りづけのスパイス
スパイスの多くがここ「香りづけのスパイス」に分類されます。
そして、その多くが「辛くない」スパイスです。
香りづけのスパイスの例
食欲をそそるような香りをつけるクミンやコリアンダーは、カレーに欠かせないスパイスとして、近年かなり有名になったのではないでしょうか(もちろん、辛くありません)。
また、辛みとは対照的に「甘い香り」をつけるシナモンやクローブ、ナツメグなどは、お菓子作りやひき肉料理のお供として知られています。
他にも、私が最も好きなスパイスであるカルダモンは、ショウガのようなピリッとした風味と、ふわりと甘いミントのような風味という、文字に起こせば矛盾していそうな風味を併せ持ち、カレーやお菓子の風味をグレードアップしてくれます。
スパイスのイメージとして「辛み」に埋もれがちな「香り」ですが、こちらのほうがメインといえるほど、多岐にわたる活躍をします。
香り高い料理に使われるだけでなく、ひっそりと臭み消しで働いていたりと、あなたも知らないうちにスパイスを口にしているはず。
色づけのスパイス
「色づけ」もスパイスの仕事。ご飯を黄色く染めるサフランはかなり有名なのではないでしょうか。
とはいえ、あまりにもサフランは高価なので、ターメリックを用いて黄色くすることもあります。
色づけのスパイスの例
ターメリックはカレーにもよく使われるほか、おなじみ「たくあん」にも使われています(安いものは着色料で黄色くしていますが……)。
他にも、きんとんを黄色く染めるクチナシや、赤色が食欲を刺激するパプリカパウダー、「料理の色味を鮮やかに」という視点では、パセリも当てはまるかもしれません。
黄色や赤色で鮮やかに彩られた料理は、見た目から食欲を刺激し、立派に「スパイス」としての働きを果たしてくれています。
*****
どうでしょうか。
「辛い」というイメージがあったスパイスにも、色んな種類があって、むしろ甘い風味を持つものや、色付けで効果を発揮するものまで様々です。
では、どうしてスパイス=「辛い」というイメージがついてしまったのでしょうか。
それに対する私の考えと、本の中で紹介されていたイメージ調査について見ていきたいと思います。
スパイス=「辛い」というイメージ
なぜスパイス=「辛い」というイメージになったかについて、私見を述べます。
一昔前、日本でスパイスを使った料理といえば、(インド)カレーぐらいしか知られておらず、「甘口」~「辛口」の尺度、つまり「辛み(≒唐辛子)」の多寡でしか、「スパイス」を意識することがなかったのではないでしょうか。
そうしてスパイスが効いている=辛いものというイメージがつき、それをさらに激辛ブームが後押ししたのでは、と考えています。
また、専門家による主婦を対象とした、ハーブとスパイスに対するイメージ調査では、次のような傾向がみられたといいます。
スパイスのイメージは「辛味感がある」「強烈」「激しい」「薬臭い」「身体にあまりよくない」「おいしい」などが上位を占めていました。ひところの激辛ブームが災いしてか、スパイスといえば刺激的で、とくに子どもにとっては身体によくない、というイメージが強いようです。
引用文献:武政三男「スパイスの科学」河出文庫 p.37
また、”スパイスは刺激的な味だけが強調されて、よい芳香感についてのイメージが弱い”とも言及(同 p.38)されています。
こうやって、一旦定着してしまったイメージは、なかなか払拭できません。
そして、それはメディアによって繰り返し発信されます。
まさに、最初に紹介したようなグルメ番組での「『辛み』は10何種類のスパイスでつけている」というような表現がなされ、それが積み重なることで、皆さんにスパイス=「辛い」というイメージが刷り込まれていくのです。
どうかイメージに惑わされないで
一方で、その番組の制作サイドを責められないとも考えています。
スパイス=「辛い」というイメージが定着している中、それに逆らうメッセージを出すのは、テレビ局側にとっても、それを受け取る視聴者にとっても、カロリーが高すぎます。
なので、もう仕方のないことだと諦めてもいます。
正直なところ、分かる人だけ分かっていればいいとさえ思ってしまうことも。
でも、刷り込まれた固定観念のせいで、スパイスから作るカレーやスパイスを効かせた料理を「辛そうだから」という理由で避けてしまう方がいらっしゃるのは寂しい思いがあります。
コリアンダーの爽やかな香り、クミンの食欲そそる香ばしさ、シナモンの甘くもスッと通る心地よさ……
まず、この記事を読んでくださったあなたには、「辛くない」スパイスにも、というか、「辛くない」スパイスだからこそ楽しめる風味や色味があるのを、ぜひ感じていただければと思います。
おわりに
スパイス=「辛い」というイメージがありますが、その実、「辛いスパイス」は世界のスパイスの中でも1/5以下と言われています。
また、スパイスには「辛みづけ」のほかに、「香りづけ」「色づけ」の働きを持つものがあり、特に、「香りづけ」のスパイスに多くの種類が属します。
スパイス(カレー)ブームがあってもなお、スパイス=「辛い」というメッセージが未だにテレビ等のメディアから伝えられている中、まずは、この記事を読んだあなただけでも、「スパイスには、辛いものもあるが、多くは辛くない」という認識を持っていただければ幸いです。
では、最後に皆さんに、「スパイスは辛いものばかりではない」と刷り込んで終わりたいと思います。
スパイスは辛いものばかりではない
スパイスは辛いものばかりではない
スパイスは辛いものばかりではない
むしろ辛いもののほうが少ない
スパイスは辛いものばかりではない
スパイスは辛いものばかりではない……
ここまでご覧いただきありがとうございます。
スパイスが辛いものだけじゃないと知ったあとは……
スパイスからレシピを探せる図鑑で、「辛くない」スパイス料理を作ってみるのはどうでしょうか。
スパイスカレーを作ろうと、スパイスを買いにスーパーに行きたくなったら、落とし穴に気を付けて。
まずはこのチキンカレーから。カイエンペッパー(唐辛子)を抜いて辛くないカレーにもできます。
本でスパイスを知る
写真付きでまずスパイスの種類を知るならこの一冊。
スパイスの知識をもっともーっと深めるならこの一冊。
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