0049 自分に合う考えに出遇うとき

百汁百菜

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 たいていそれはちょっとした記述から始まる。その本や論述のメインテーマではないところで少し触れられただけに過ぎなかったりする。だけどふと目に止まったその人の名、本の名、思想の切れ端……そんなところから自分に合う考えをもった哲学者、詩人、小説家などに出ったりする。そこに示された少しのヒントから本を探し、読んで考えを深める。そうやって僕は僕に合う考えに出遇ってきた。わざわざ「遇」の字を当てて書くのは、それらが「思いがけない出会い」ばかりだったとおもうからである。
 意識して何かに出会おうとして、何かに出くわすことはほとんどない。たいてい藪から棒で、棚から牡丹餅ぼたもちなのである。でも、あまたある本の中からそれを引き抜いたということは、何かしら引き合うものはあったのかもしれない。あとはそのわずかなとっかかりに自分を引っ掛けるだけ。これは引き寄せの法則などとはまったく違う。なぜなら自分から引き寄せようとはしておらず、あくまでたまたま出遇ったものに自分を投げ込んでいっただけのことであるから。

 このように出遇った物語や思想は、自分事のようにおもえて、多少議論が込み入っていてもすんなり理解できるということがある。本離れが叫ばれ、また、そもそも本を読むのが苦手だという人もいるが、自分事のようにおもえることなら読める……のかもしれない。そういう出会いがなかっただけなのではないかともおもう。むろん、それだけが原因ではないというのは重々承知しているが。
 僕はあまり本を読むのに苦手意識を持っていない(そのかわり読むのが遅い)が、どれだけ簡明簡潔に書かれた文章でも頭に入ってこないということがある。それはやはり自分事のようにおもえない文章に出会ったときである。脳がそれを受け入れるのを拒否するような、ざらついた感触をおぼえたことは一度や二度の話ではない。そういう本はさっさと閉じるに限る。図書館で借りた本ならすぐに返すし、買った本なら売りに行く。こういう失敗もあるから踏み出せないというのはあるかもしれない。
 でも、やはり「これだ!」という出遇いをしたければ試行回数がモノをいう。部屋に閉じこもり、「自分に合うものがこの世にはない」と嘆いてもなにも始まらない。また、いきなり正解に辿りつきたいと思っても、いい結果はついてこない。こういうのはじっくり腰を据えて取り組み、じわりじわりと興味の幅や出遇いの幅を広げ、あとは稲妻に打たれるのを待つしかない。出遇いのためのアクションは起こしつつも、基本的には「耐え」と「待ち」のプロセスなのである。

 こんなとき、何を読めばいいか問われたとき、読書人はたいてい「古典を読め」と言い出すのだが、これは古典が逃げないからである。変化の著しい現代において、生まれてはすぐに消えていく泡沫のような「仕事術」なり「ライフハック」などは、あっという間に「時代遅れ」になるが、すでに読み継がれた歴史があって、現代まで生き残っている強度があって、そしていつまでも人間が変わってないことを思い知らせる古典は逃げることがない。また、とっくに「時代遅れ」なのだから、これ以上古くなることもないのだ。
 古典を読む過程であらゆる創作物の「元ネタ」に出くわすことがあるというのは、結構面白い読書体験になるだろう。ただ、いきなり原著にあたるのは危険だから、解説書から入るのがいい。その解説者との相性もあるだろうが、できるだけベーシックに敷衍ふえんしてくれるような本と出会えればそれは僥倖ぎょうこうである。

 また、一度読み始めたら、それを読み終えるまで他の本には手を出さない……というのはおすすめしない。数冊を並行に読み進めると、思わぬつながりを発見したりして面白い。そのときの自分が手に取った本なのだから、なにかしらの共通点はあるものである。それらが相互に影響して、より理解が深まったりもする。並行読みをすれば、途中で投げ出したり、内容を忘れてしまうリスクもないではないが、とにかく飽きることがなくなるし、その日の気分に合わない本は飛ばせばいい。モチベーションがない状態で義務感に押されて向き合ってもロクなことにはならないのだから、その一冊にみさおを立てる必要なんてない。他の本に浮気上等なのである。
 腰は据えるが、かろみは忘れない。こうやって自分をほぐし、いつも準備体操状態で待機しておけば、「これだ!」というものに出会えたときに一気にダッシュしてもケガをせずに済むだろう。また、本の浮気は出遇いのチャンスを広げることに直結するのだから、堂々と、誇らしく浮気すればいい。まじめくさるのは運命の本に出遇ってからでいいのだ。

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