0077 指についたカレー、拭うか舐めるか?

百汁百菜

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 指に関しては少々潔癖なのかしらん。今どきスプーンが標準装備のインネパ料理店でも、やっぱり手で食べるのがいいだろうとおもってナンをちぎってカレーに浸して食べるものの、指にちょっとでもカレーがついたら「うわっ」とすぐに拭いたくなる。ナンの油や粉だって、ずっと指についたままだとガマンならない。そこで指をねぶってしまってもいいのだが、今度は指についた唾液が気になる。猫の毛繕いと、人間の指舐めはなんだか違って、猫のそれは清潔感につながるが、人間のそれは“ばっちい”感じがする。その後で公共物に触るのなんて言語道断!それどころか、自分の持ち物だって、一旦指を清めてからでないと触りたくない。とかなんとかいう割には、他人が素手で握ったおにぎりは(もちろん、作る前に手は洗っておいてほしいが)気にならない。自分の指になにかが付いているという状況に、僕は敏感なのかもしれない。
 とはいえ、手袋を一枚挟むだけで、そのあたりの忌避感は一気に薄れる。スーパーのアルバイト時代は厨房の汚れのあれこれを掃除してきたけど、手袋を一枚かますだけで抵抗なく汚れに手を突っ込んでいたし、今は小さい畑をやっているけれど、作業中に害虫を捕殺する際にも、手袋をしていればだいたいなんでもやれてしまう(それでも、潰す瞬間のなんともいえない不快感は少々ある)。手袋という皮を一枚隔てるだけで、僕の手は一気にあらゆるものを触れるようになる。やっぱり皮膚そのままで触れて、なにかが付くというのに耐えられない。

 しかし、先に述べたように、短時間指に汚れが付くのには耐えられないが、長い時間付きすぎて、もう汚れとかどうでもよくなってしまったり、あるいはもう手の全体にべっとりとついてしまって、もはや笑うしかないような状態になったとき、それはもはや快感へと反転することがある。どろんこ遊びや餃子包み、骨付きフライドチキンをしゃぶっているようなとき、もう汚れとかどうでもよくなって、なんだか気持ちよくなってきたりする。
 日本におけるケガレとキヨメの感覚は概念だけでなく、実際生活における清潔感へとつながり、世界随一の衛生観念を育んできたわけであるが、箸でものを食っていると感じないような手の喜び、官能をどこかに置いてきてしまっているようにも感じる。エッセイストの平松洋子は、桃を手で剥いたときに、「かぶりつく前、いっとう最初に指先がたっぷりと味わっている」(『買えない味』「指」ちくま文庫版 p.56)。と書いた。続けてこうも書いた。

 そのことに目覚めたのは、じつはインドの旅であった。チャパティをちぎる。カレーに浸す。スープに浸ける。ごはんを右手の三本の指できゅっと丸める。それらを口に放りこむ。おなじターリに盛られたココナッツミルクのカレーと豆のカレーでは、指に伝わる熱さぬるさ、濃度はまるきり違っており、まず自分の指が直接「味わい」を知るのである。
 (中略)
 そうか、指も舌なのだった!

平松洋子『買えない味』「指」ちくま文庫版 p.56(強調は引用者による)

 指先の微細な感覚は、これから口に運ぶものを先に味わうためにあったのだ!狩猟採集時代に培われたであろう指先の感覚は、あらゆる食べ物を前にして、つまんだり、つついたり、にぎったりして、「これは食べられそうか」「この実は食べごろか」というような判別にも使われていたはずだ。すでに手は「おいしい」のセンサーだったのである。
 インド人はミールス(南インドの定食)を食べるとき、ずっと右手でこねこねしているという。その“こねこね”で、カレー、おかずの味をライスによく染み込ませるように混ぜながらも、口に先んじて指先で味わい、これから舌に迎える味の予感を膨らませつつも、その店の良し悪しも判断しているのだろう。インド人はカレーを二度食べている。これを平松洋子も味わったのだ。

 思うに、インネパ料理店では、サラダはフォークなり箸がついてきて、それで食べることになっているようなことがあるが、それがかえって指の汚れを気にしてしまうことにつながっているのではないか。手で食べている途中に、なにか別の道具を挟んでまた食べるとなれば、そのフォークや箸の持ち手が汚れるのが気になってしまう。持ち替える度におしぼりを挟まないといけないような気になってしまう。全部手で食べるようになっていれば、そんな抵抗いっさいなく、ずっと手で食べていられるし、途中で指が汚れようとも、それを指でねぶろうとも、自分が食べる料理しか触らないのであれば気にならない。手で食べる気持ちよさを存分に味わえる。
 なので、どうか世のインネパ料理店のみなさまにおかれましては、手で食べても恥ずかしくないようなサラダとか、そういう盛り付けにしておいてくださいませんかと、お願いしたい次第であります。

これは「エリックサウス」のミールス。このときはスプーンで食べてしまったが、手で食べてもよかった……のか?

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今回の一汁一菜

2026/03/27分

ブロッコリーと卵の味噌汁
サラダチキンときゅうり和え
大根の醤油漬け

うっかりして数日分飛ばしてしまっていた。

参考文献

・平松洋子『買えない味』ちくま文庫

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