0084 うどんは“ひやあつ”

百汁百菜

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 かけうどんを一番旨く食べたいなら、「ひやあつ」で決まりだろう。氷水でキリッと締めた麺に、温かい汁をかけて食べるかけうどんの方式で、おもに讃岐うどんの店で供されているはずである。丸亀製麺でもメニューには載っていないが、忙しくないときに頼んでみたらやってくれるかもしれない。どうせ汁は自分でサーバーから注ぐのだから、麺だけ氷水で締めてもらっておけばそれでひやあつにできる。もし無理だったとしても、おろし醤油うどんを頼んでそこに出汁を注げばいい。余った大根おろしは天ぷらと一緒にどうぞ。

 そんな、わざわざ氷水で締めた麺に温かい汁をかけては台無しじゃないかと思われるかもしれないが、これがまた旨いんだな。締まったうどんが熱い出汁の中でゆるりと相好そうごうを崩したところをサッとつかまえて麺をたぐる。これがひやあつの真骨頂。讃岐うどんの命であるコシが残りつつも、温かい出汁によってほどよく緩んだ麺がとにかく旨い。普段凛としてなかなか笑わない人が、その頬をほころばせたかのような嬉しさがある。そして出汁はやっぱり温かいほうがいりこ(煮干し)の風味が立っていて香り高い。麺をすすりあげると同時に鼻腔を突くいりこの香りにたまらず悩殺されてしまう。氷水でキリッと締まったうどんの力強さに負けないように、やっぱりいりこだしが望ましい。

 「ひやあつ」は気温が安定しない時期にもちょうどいい。「あつあつ(あつかけ)」を食べるにはちょっと暑いけど、「ひやひや(ひやかけ)」では身体が冷えすぎる、そんなときの中間択としてもひやあつは優秀である。白湯を飲むがごとく、身体にやさしくうどんが入っていく。どちらにも振り切らず、ぬるみの中に身を浸すというのは、なかなか気持ちのよいものである。
 また、コシが強すぎる麺がゆるむというのは見逃せない。讃岐うどんの店ではしばしば、締めた麺のコシがすさまじくて食べ終わる頃にはアゴがすっかり疲弊することがある。大盛りを頼んでいる人は胃よりも先にアゴが限界を迎えてしまいそうだ。そんな、もはや強すぎるといってもよいコシを温かい出汁が緩めてくれるから、ほどよいコシ具合で麺を楽しむことに集中できる。

 ひやあつは、シロノワールのように、あつあつとひえひえのコントラストが明瞭ではない。コントラストよりはむしろハーモニーであり、徐々に互いの温度が近づき、溶け合ってゆく。時間と共に麺はゆるみ、出汁はぬるくなってゆく。
「あったか〜い」でも「つめた〜い」でもなく「ぬる〜い」と言われてしまってはなかなか美味しそうに思えないかもしれない。そりゃあそうだ。ぬるいそばもラーメンも、とても美味しいとは思えない。そして、熱くもなければ冷たくもないという、どちらともつかない中途半端さを受け入れられない人もいるかもしれない。熱いものは熱く、冷たいものは冷たくして食べるのが一番よいとされているからである。とくに料理人はその温度に細心の注意を払ってきているはずだ。
 それでも、やっぱりうどんは「ひやあつ」なのである。ぬるくして食べるのが旨いのである。ほかの麺がダメでも、讃岐うどんだけはこの食べ方が許される。僕はほかにも、ぶっかけうどんやしょうゆうどんを温かいほうで頼み、冷たいつゆや常温の醤油をかけて食べるのも好きである。熱くもないが、冷めてもいない、ぬるいうどんの収まりのよさといったらない。
 うどんは身体に喝を入れるよりも、しっかり蓄えて腹に力を入れたいときの食べ物だから、こうして熱くもなく、冷たくもなく、ゆるりと腹に収まってくれるのが一番いい。

これを書いた日(2026/06/11)の昼はやはり「ひやあつ」。どこの店かは、すでに有名すぎるから書かない。

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今回の一汁一菜

2026/04/07分

小松菜・トマト・コーンのバター炒め味噌汁
大根の醤油漬け
わさび椎茸の佃煮

バター×味噌はあんまりやらないけど、コーンが入るならやっぱりね。

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