二人の目が合う。向かい合って立つ。やることはひとつ。
「た〜め」\パンパン/「た〜め」
「はーっ」\パンパン/「バリア」
「バリア」\パンパン/「はーっ」
「た〜め」\パンパン/「た〜め」
「た〜め」\パンパン/「はーっ」
右側の勝ち。
小学生の頃、パンパンと手を叩いては、溜め・バリア・攻撃(「はーっ」)のいずれかを選んで出し、勝敗を競う謎の手遊びがあった。地域によっては「CCレモン」「せんだめ」だの、いろんな呼び方があるらしいが、僕の地域ではたまに「公式」と呼んでいた子がいたぐらいで、だいたい「アレ」で通じていたし、もはや遊びの呼び名など不要で、無言で二人が向かい合うと手を叩いてゲームを始めるといった具合であった。




出せる手は最初に挙げた3つ(溜め・バリア・攻撃)が基本で、攻撃は1度「溜め」をしなければ放てなかったから、まずはお互いに「た〜め」からスタートする。
こうした手遊びにはローカルルールがさまざまにあったり、遊びの中でもどんどん新たなルールが創発されていくから、遊ぶ相手の分だけ無限に技が飛び出してきたりして、まるで生き物のようにルールはどんどん変わっていく。もはや言ったもんが勝つ、一種のTRPG的な要素を持っていたといえる。
よそではどうか知らないが、僕の地域では2回溜めることで両手で放つ上位の攻撃(便宜的に「はあーっ」としよう)があり、これは1回溜めの攻撃に勝るものとして扱われていた。ただしバリアは破れない。これは僕の地域ではだいたいみんなが承知していたルールである。
ただ、バリア一発でなんでも守れてしまうのは面白くないと、バリアを破れる攻撃として何度も何度も溜めることで放てる強力な技が発明されるに至った。だが、これを撃ちたいがために互いに溜めを繰り返して、ドラゴンボールのなりきり遊びのような、気を溜めたうえで放つ「かめはめ波」の撃ち合いのごとき様相を呈していて、こうなってしまえばもはやゲームの原型をとどめてはいなかった。
まあ、それでも面白ければよかったので男子たちはあらゆる技を考えては試し、戦術を広げるものと評価を受ければコミュニティに採用され、なりきり遊びもクロスしながら、めいめいにこの遊びを楽しんでいた。
今思い返してみれば、このゲームはただのじゃんけんとは異なり、なかなか奥深いゲームであったことが見えてきた。まずは「溜め」のリソース管理である。先にも述べたように、僕の地域では2回溜めることで放てる上位の攻撃「はあーっ」があることから、溜めの回数をきちんと覚えておいて、どこでそれを使うかを考えさせられた。そして、1回溜めの攻撃でジャブを撃って、次に本命の2回溜め攻撃を通すなどといった立ち回りを遊びの中で勝手に覚えていくのである。
また、この駆け引きがヒートアップするにつれ、互いに今何回溜めた状態なのか、そして何回溜めを消費したかを覚えておくといった、短期記憶のトレーニングにもなっていた。「n回溜めれば放てる技」が開発されていけばいくほどに、この溜め回数の記憶は重要度を増していき、これを遊んだ小学生の成績はみるみる上がったとか上がっていないとか。
そして、僕が一番注目したいのは、「溜め」と「バリア」の駆け引きである。バリアは確かに最強(何度も何度も溜めた末に出てくる奥義以外に対しては)で、数回の溜めで放たれた攻撃なら跳ね返すことができるから、攻撃に勝る手としてだけでなく、攻撃に必要な溜めも潰すことができる手として出すことができるものになっている。しかし、バリアが常に最強であるかといえばそうではない。
何も考えずに張られたバリアに対しては、溜めを選択することでリスクをつけることができる。たとえば、互いに溜めが1回どうしの対面で、片方がバリア、もう片方が溜めを選択した場合、バリアを張ってしまい溜めが1回しかないほうは、2回溜めの上位攻撃に怯えないといけないほか、1回溜めの攻撃が2回飛んでくる可能性もあって、迂闊に溜めることもできない。じゃあバリアを張り続けていれば勝てるのかといえばそうではない。
このゲームは攻撃ができなければ勝てないというところがバリア最大の弱点である。勝ちたければどこかで溜めなければいけないのだが、この溜めの回数で不利になるとバリア一辺倒になり、相手に一方的な溜めを許して、最後は奥義でバリアを破壊されて終わってしまう。相手が複数回溜めようとしているスキを狙って攻撃したって構わないが、当然相手もバリアを持っているのだ。下手に溜めを使い切ってしまえば一巻の終わりである。
溜めて、撃つ謎のゲームで勝ちたければ、とにかく溜めの回数で有利に立つことである。自分の溜めを使い切らずにうまいところでバリアを張って、相手の溜めを消費させるという立ち回りが求められる。
このように、確かにバリアは強い行動だが、何度も振り回していれば溜めの回数で後れを取ってしまうから、使う場面は考えようといった性能に落ち着いているところに、意図したかどうかは知らないがこのゲームの妙味がある。
こうした溜め・バリア・攻撃の構造を持つゲームとして、僕の知る例では、ポケモンバトル(とくにダブルバトル)がそれにあたり、溜め→「つるぎのまい」などの能力上昇技、バリア→「まもる」「ワイドガード」などの防御技(多くの技は連続で出すと失敗しやすくなるというリスク付き)、そして攻撃技の数々があり、溜めて撃つ謎のゲームで鍛えられた読み合いの力を存分に活かせるゲームとなっているだろう。
大人になった今、このゲームで適切に立ち回れるかどうかはかなり怪しい。一見シンプルに見えるものの、互いの溜めの回数を覚えながら、攻撃に割く溜めの回数も考慮するといった遊びは奥深く、そしてなかなかの認知的負荷をもたらす。小学生の頃はまず脳が若いということと、単純にゲームに勝つだけを頭に入れておけばよかったから、こうした複雑な思考を走らせていたにも関わらず、何度も遊べていたのかもしれない。
しかし、今となってはどうだろう。数戦するだけで一気に疲れてしまいそうだ。でも、道具なしですぐに遊べてそれなりに頭を使うゲームであるから、高齢者のボケ防止に使うのはおおいにアリではなかろうか。でもそのうちローカルルールができて、言った言わないの話になって大げんかになるかもしれないからやめたほうがいいかもしれない。
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今回の一汁一菜


2026/06/21分(上)
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大根と京菜の漬物
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2026/06/22分(下)
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