ふと焼肉が食べたくなった。焼肉はしょっちゅう食うわけではなく、せいぜい年に一度食べればいいぐらいなのだが、このタイミングで食べたくなってしまった。放っておけば野菜ばかり食べてしまい、タンパク質不足になったこともある僕だけど、これから夏本番といったところで肉を食べたくなってしまった。
焼肉を食べるならやはり財布の心配のいらない「放題」がよく、「自由」や「勝手」と並んで、これらの言葉を目にしたり耳にすると人々は興奮止まらず、想像止まらず、血湧き肉躍り、胸も躍り、鼻息荒く、決行のとき待ち遠しく、予行演習の数々をこなして準備万端整えるようになる。「自由」と「勝手」の話は次回にするとして、今回は「放題」の話。〽︎焼肉食べ放題ヨロレイヒーなんです。
焼肉食べ放題決行の日の朝は畑作業でしっかり汗を流し、腹を空かせてから店に向かった。昔からずっと憧れていた一人焼肉の食べ放題というのもあって、遠足の前日のごとく興奮して眠れぬ夜を経て、イメージトレーニングは万全。席について、4種類ある食べ放題コースを吟味する……といっても最初からどのコースを頼むかは決めていたのだけれど。
焼肉の初手はタンと行きたいところなのだが、最近の焼肉食べ放題だと牛のタンはプレミアムコース行きとなっており、普通のコースだと豚タンが主流。まあ別にスーパーやコンビニのおつまみコーナーで豚タンは食べ慣れているし、牛タンにこだわって高額コースにする気もないから、下から2番目の食べ放題コースを注文。一番安いコースは肉もサイドメニューも注文できる料理がかなり絞られており、せっかくの機会なのに一番安いコースにしてしまってもいいのか、という気になったから、下から2番目のそれなりの品目を注文できるコースを選択。
一応、炭水化物は控えめに、もちろん野菜も食べて、あとはできるだけ多く肉を食べるという作戦ともいえない作戦を展開する。フライドポテトや唐揚げ、たこ焼きといったサイドメニューには目もくれず、とにかく肉とサラダ、ときどき炭水化物を食べていく。今回行った店はランチだと時間無制限ということもあり、焦ることはないからと、肉はじっくり焼いて期待を高める。
ひと昔前に比べると食べる量は減ったけれど、最近は炎天下での畑作業が続いているし、食べなさすぎて体重が落ちているということもあったから、しっかり食べて体力つけねばと、どんどん肉を焼いて食っていた。しかし、誰とも喋らずにひたすら食べていると、1時間ぐらい経ったところで、早くも雲行きが怪しくなる。
食事に集中しすぎて、ペース配分を間違えて最初から飛ばしすぎてしまったうえに、オーダー制だから、「まだいける」と思っていたときに注文したものが時間差でやってきてしまう。さらには、タンパク質の味に飽きてきてしまった。焼肉食べ放題なのに、肉の味に飽きてしまってはもう終わりである。だが、肉の味というのは、野菜や主食の炭水化物類と比べて味のバリエーションに乏しいのだから、飽きが来るのが早いのも当然といえよう。
焼肉食べ放題が成り立つのは、みんな早々に肉に飽きて、サイドばかり頼むようになるからなのかもしれない。だからあんなにサイドメニューが充実しているのか。どうせ肉の味に飽きてしまうのであれば、焼肉食べ放題の店やコースを選ぶ際、頼める肉の種類よりも、サイドメニューの種類を重視した方がいいというのは、すっかり盲点だった。
3年ぐらい前に友人たちと3人でランチ時間無制限の食べ放題ビュッフェに行ったときは、ひたすらに野菜の料理を食べていたことがあった。サラダに次ぐサラダ、時々和えものやラタトゥイユなどの煮物を挟み、とにかく野菜料理を食べ尽くした。いわゆるホットメニューといわれるような、ビュッフェに並んでいる唐揚げやフライドポテト、ピザやパスタの味はもうわかりきっているからと、ひたすらに野菜の料理ばかり選んで食べていた。
すると、ほかの2人が満腹になってもまだ僕は野菜を食べ続けていた。時間無制限だからどれだけ居たかは忘れたけれど、たぶん2〜3時間は食べ続けていられたのではないだろうか。野菜料理の味には飽きが来ないからというのはもちろん、どれだけ食べても胃がもたれないというのも嬉しく、食べ放題翌日に腹の調子がおかしくなるということもなく、食中、食後も充実した時間を過ごすことができた。
それに引き換え、焼肉食べ放題のほうはといえば、わずか1時間ほどで肉の味に飽きたにも関わらず、「まだいける」と思っていたときに注文した肉を食べ切ることに追われるようになり、本当に楽しいのかどうかわからなくなってきてしまった。これが、自分で取ってくる食べ放題ならまた話は変わったのかもしれない。オーダー制の恐ろしさを噛み締めながら、食べ残しはないようにと必死に食べる。
肉をすっかり食べ終わったら、もう少し食べたい欲が出てきてしまった。せっかく下から2番目のコースなのだから、サイドメニューからも、一番安いコースでは頼めないものを頼んでみようという気になってきてしまった。そうしてシメの炭水化物を少々食べて、最後のデザートへ向かう。が、ここで本当にトドメを刺されてしまった。
頼んだのは名物といわれるアイスクリーム。商品名からして一見、さつまいもを使ったアイスのように見えるのだが、その実、ポテサラのようなさつまいもがバニラアイスの下に隠れていたのだ。さつまいものアイスなのではなく、さつまいもの上にアイスを載せたものだったというわけである。突如降ってきた想定外のボリュームにとうとう撃沈。なんとか完食はして、腹を抱えながら会計を済ませる。結局、時間無制限なのに2時間ぐらいで退店することになった。
それからというもの、人間の尊厳を守るための戦いがはじまった。とりあえず腹ごなしと、外の風を浴びるために散歩をする。顔は引きつり青ざめており、猫背で歩く男の姿は紛れもなく不審者。顔色の悪さを悟られまいと、すれ違う人々と目を合わせないようにしていたから不審者度合いはいや増すばかりであっただろう。
たびたび座り込み、喉の奥から湧き上がるものを必死に抑え込む。水すら飲むのが苦しいなか、炎天下の散歩道を歩かざるを得ないのは自ら選んだとはいえ、たいへんな苦行であった。そうして波が落ち着いたところを見計らって車に乗り込んで帰宅。だが、家に帰ってからのほうが苦しい!どうしたって外にいたときよりも気が緩んでしまう。抑え込んでいたものが出て行こうと躍起になる。それを食い止めるべく楽な体勢を探し、なんとか人間の尊厳を守ろうとする僕。とうとう疲れ果てて2時間ほど眠ってしまった。
起きたら19時ぐらいになっていた。僕は人間の尊厳を守りきった。押し寄せる波も落ち着いて、食べたものは、全て僕の中に収め切ることができた。が、こんなに苦しんでまで「放題」するのはもうこりごりである。当面の間、食べ放題の類はもうたくさんである。普段から別に「放題」しなくたって、満足した食生活を送っていたじゃないか、というのを思い出して、今後の戒めとしなければならない。
すっかり食欲は自身のコントロール下にあると勘違いしていたが、やっぱり「放題」となれば、タガが緩んでしまう。普段抑えているからこそ湧き立ってしまうなにかがあるのかもしれない。「放題」を認められるだけで、制御が効かなくなってしまう。この点において、やっぱり「自由」とは異なっているようにおもえる。そのあたりについて、次回は考えてみたい。
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今回の一汁一菜

2026/05/11分
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カンパチ・サーモンの刺身
刺身かまぼこ







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