0098 そうめんやっぱり揖保乃糸

百汁百菜

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『サザエさん』を観ていたら「七夕にはそうめんを食べる」といっていた。いその家でも夏はそうめんがしょっちゅう食卓にのぼっているとみえて、子どもたちは「それじゃあいつも通りじゃないか」というようなことを言っていた。その後、「ちらし寿司を食べるところもあるよ」と説明されたり、和菓子屋の店頭に並ぶこの時期だけのお菓子「索餅さくべい」なんかも紹介されていて、『サザエさん』はいまや日本文化を継承するメディアとしての役割も果たしているのかとおもったものである。

 さて、我が家では七夕といっても特に何もしてこなかった。七夕だからという理由でそうめんを食べたことはないし、ちらし寿司だって七夕に食べた思い出はない(桃の節句になら食べた)。短冊に願いを書くなんてことも、幼稚園だか小学校だかで数度させられたぐらいしか記憶になく、ショッピングモールとか色んなところで「短冊に願いを書いて笹に吊そう!」と企画がなされていても参加した覚えがない。昔から短冊に書くような願いを持っていないシケた子どもだったのだろう。それは今でもあんまり変わらない。今もとくに短冊に書くような願いなんてない。ただ平穏を望むだけ、それも一応書く意味はあるのかもしれないけれど。
 まあそんなシケた子どもだって、夏になれば世のご家庭と同じようにそうめんを食べて育つ。夏のそうめんはご飯に代わる主食かのごとく食べた気がする。母と2人なのに6束全部茹でてしまって腹を膨らませる。めんつゆと多少の薬味だけで、ザルいっぱいのそうめんをたぐっては啜り、たぐっては啜り……。よくもまあそんな食事で飽きなかったものである。
 ただ一点、我が家が譲らなかったのは、そうめんは絶対に「揖保乃糸いぼのいと」だったということ。これは明らかに恵まれていた。このこだわりのおかげで飽きてしまいそうなそうめんだって美味しく食べられていたのかもしれない。

 さて、自分で夏の昼飯を用意するようになってから、すっかりそうめんの回数は減った。外で食べるという選択肢が増えたから、というのもあるというのもあるが、やっぱりそうめんだけの食事というのは何か物足りない。というのも、未だ夏バテで食欲がなくなるということを経験したことがないので、そうめんだけの食事というのを選ぶ動機が薄いのである。
 それでもごくたまにはそうめんを食べたくなってゆがく。でも、かつてのように2人で6束=1袋茹でるということはしない。1人で2束あれば十分。食欲があれば3束いくこともあるが、2束で結構お腹がいっぱいになってくる。もう成長期ではないのだから、あの頃のように食べていてはいけない。
 あの頃と随分変わったとおもうのは、「そうめんといえばめんつゆ」という意識が薄れはじめているということ。全国の親御さんを悩ませるそうめんに対する飽きの問題に対応するため、調味料メーカーは各社こぞって凝った味のつゆでそうめんを食わそうと趣向を凝らしている。鯛だし、塩レモン、トマトに坦々麺風といった、ひねりの効いたちょっと洒落たつゆたちが「めんつゆ」棚で殷賑いんしんをきわめている。また、めんつゆ自体も麺料理以外のあらゆる味付けに用いられるようになっていて、「そうめんといえばめんつゆ」といった結びつきは随分緩んだものである。
 と、そうめんを食べるつゆの選択肢が増えたものの、今の僕は飽きるほどそうめんを食べない。というかそもそもそうめんで飽きたことはないのだが……。なのでそうめん食うならやっぱりめんつゆ。そして、今回はとうとうめんつゆを作ることにした。

 市販のめんつゆで気になるのはやはり甘み。ブドウ糖果糖液糖を加えてまで甘みを出そうとするめんつゆはいただけない。食べたあとにいやな余韻が残ってしまう。それに、我が家では料理の味付けにめんつゆは使わない。あまりにも使わなさすぎて、濃縮タイプを買った暁には冬越ししてしまうこともザラである。ならば、もうそうめんを食べるときに都度作ればよいのである。
 参考にしたのはもちろん土井善晴さんのレシピである。出汁4に対して、醤油とみりんを1ずつ加えて煮立たせ、10分ほどかけてじっくり熱し、ポコポコしてきたらボウルにとって、一回り大きいボウルに氷水を張って一気に冷やす!
 あまりにもすぐ出来上がってしまった。こんな簡単に欲しい分だけ作れるのなら、最初からそうしておけばよかったとおもえるほどである。今回はガツンと来る旨みが欲しかったので昆布・鰹節にくわえ、煮干しも何本か入れてみた。これが吉と出るか、凶と出るか。

 あとはそうめんをゆがくだけ。湯が沸いたら帯を解いたそうめんを一気に鍋に放つ!ここからはよそ見禁止、スマホ禁止、ショート動画なんてもってのほかである。まったく、一体いつから人はそうめんの茹で時間ほども我慢ができなくなったのだろうか。
 そうめんは油断したら吹きこぼれてしまうから、鍋から目を離してはいけない。ボコボコと泡が上がってきてそろそろ危ないかも……のちょっと前(これが肝心!)に火を弱め、また落ち着いたらまた火を強めてさらにゆがく。この間せいぜい1分半なのだ。我慢しよう。

 茹で上がったらザルにとってまずは水だけで流して手で持てるぐらいまでは冷ます。あとは氷水でキュッと締め上げる。ザルを振って水を切るだけでは全然水気が残っているので、ギューッと手で掴んで水気を絞り取る。揖保乃糸なら多少力を加えたって全然千切れないから、思い切ってギューッと絞る。ここで水気を切るのが甘いと、食べているうちにどんどん味が薄まっていく。流しそうめんなんかは確かに見た目は風流かもしれないが、ビチャビチャと水気をたっぷり含んだ麺をつゆにドボンしてしまっているのだから、味のほうはすっかり犠牲になっているのではないかと僕はいつもおもっている。

 そうめんだけでは寂しいので、畑で採れたきゅうりや軽く焼いたナスとししとうを添えてみた。これで完成。なかなか豪華な食卓ではないか。

 さて、自作のめんつゆの味はどうかと一口そうめんを啜ってみれば、まさに清冽せいれつ。出来たてのめんつゆはキレのよさが全く違う。余計な甘ったるさがなくてスッと引くから、次の一口をすぐに求めてしまう。煮干しを入れたことによるガツンとくる旨みに加え、若干の苦みが奥深さをもたらし、もうこれは市販のめんつゆには戻れない。自分で出汁の素を選べる嬉しさといったら。
 別にただゆがくだけでも揖保乃糸はうまいが、ここまで仕事をした上で啜る揖保乃糸のうまさはやはり格別である。身近な存在すぎて忘れていたが、揖保乃糸はスーパーで売っているものだって十分に上級素麺なのだから、これからはちょっと手をかけて食べたいものだとおもった。

 ここまで、揖保乃糸は周知のものだという前提で全く説明をしてこなかったが、一応最後に説明しておく。揖保乃糸は兵庫県の西のほうにある、たつの市を中心に生産されている素麺のブランドである。「揖保乃糸」株式会社なるものがこの素麺の生産を一手に担っている……のではなく、兵庫県手延素麺共同組合がその商標を有しており、この組合に参加している生産者が寄り合って「揖保乃糸」ブランドの素麺を作っている。CMのキャッチフレーズは「そうめんやっぱり揖保乃糸」。最近は「そうめんチャチャチャ」なんてフレーズを繰り返しているが、水切りの際、「チャチャチャ」程度では水気が全然残ってしまっているというのは先にも述べた通りである。CMでもそんな感じで水切りをしてしまっているからそれでいいようにおもえてしまうが、やっぱり力を込めてギュっと絞った麺のほうがうまい。このことは声を大にして、またしつこいぐらいに言っていきたいとおもう。

めんつゆのレシピ(簡易版)

・水1L
・昆布10gぐらい
・煮干し5本ぐらい
・鰹節2つかみぐらい
以上の材料を水筒やボトルなどに入れて一晩置いて水出しの出汁を作っておく。

・水出しの出汁2カップ
・醤油、みりん各1/2カップ
・水筒の中の昆布と煮干し数本
以上の材料を鍋に入れて10分以上かけてじっくり煮出す。
ポコポコとしてきて沸く前に火を止め、昆布と煮干しは取り出す。
めんつゆはボウルに取り、そのボウルよりも一回り大きなボウルに氷水を張って一気に冷やす。

余っためんつゆは親子丼などにするもよし、酢を加えて揚げ浸しなんかにするもよし……

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今回の一汁一菜

2026/04/29分

ナス・小松菜・油揚げの味噌汁
なめ茸

参考文献

・土井善晴『土井善晴の定番料理はこの1冊』光文社

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