0133 カヌレの裏切り、信頼のパイ

百汁百菜

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 カヌレをはじめて口にしたとき、裏切られた気がしたのは僕だけだろうか。どう見てもパリパリサクサクしてそうな面をしているのに、噛んだら想像通りのカリッと食感が来た……かに思えたその瞬間、フニャッとその形を崩してしまううえに、中はもちもち食感なのである。
 茶褐色の外皮に覆われているさまはキャラメリゼのそれのように見えて、いかにもパリパリサクサクの食感を想像させたのだが、それは僕の思い違いだったようだ。
 一方でパイはもう見た目通りの食感を裏切ることなく提供してくれる。パリパリ、サクサクと気持ちよく歯が入り、口中から頭に響く音の心地よいこと。ピザにしても餃子にしても唐揚げにしても、もっちゃりしているよりはサクサクと軽快な食感を好む僕にとっては、カヌレは裏切りの印象を残す存在で、パイは信頼に足る存在であるといえる。
 とはいえ、見た目通りのもの、予想通りのものを出されたとて、安心は覚えても面白みを感じないのはどうしてだろう。心のどこかでは「裏切ってほしい」とおもっているのかもしれない。

 あるコンビニで「あの味だからうまいの確定」みたいなフェアを打ち出していたのを見た。みんな知っているお馴染みのお菓子やドリンク、調味料やインスタント食品の味をパンやスイーツ、フライドチキン、おにぎりなどに落とし込み、「信頼できる味」を提供するというフェアである。これを見て、なんとつまらないフェアだろうとおもったものである。
 せっかくみんな知ってる味とコラボするのであれば、あれをそれに使うのか!?というような驚きや裏切りを見せてほしいとおもってしまった。買いもしないのに文句ばかり言って、本当に身勝手な消費者であると反省しつつも、どうしてもこのような「うまいの確定」的マーケティングには食指が動かない。何か一言言いたくなってしまう。
 別にこのフェアだけでなく、最近の消費傾向として、「失敗しないこと」「信頼できること」「裏切られないこと」が支持を集める要因だといわれているようだ。「ラーメン屋に行ったらカレーが出てきた」というような、それはそれでおいしいけど、求めていたものではないという事態はなかなか受け入れられない。
 すでにみんな見知っている味で、もう美味しいのがわかっているものしか手に取りたくないという、余裕のなさがそこには見え隠れする。だがそれは単純に社会が失敗や裏切りを許容できなくなっているだけでなく、企業が悪い意味での裏切り——たとえば、「おいしくなって再登場」など——を積み重ねてきた反動であるかもしれない。

 最初は裏切られた気持ちになっていたカヌレだが、結局その後何度か買って食べている。小味のきいた好みのカヌレを出す店を見つけたりもした。確かに最初は僕の勝手な思い込みをカヌレに裏切られてしまったが、僕はカヌレに対しがっかりしたわけではない。むしろ別の面白みを見出して、おいしいカヌレとはどんなものか探してみようとおもわせてくれたのだ。

 人付き合いでもなんでも、抱いていた印象を裏切るようなものが出されたとき、落胆する人がいる。ひどい場合は「それはお前らしくない」などといって相手に行動や思考の変容を求めるような場合だってある。なぜ相手を矯正するような真似までして(そしてそれは徒労に終わる)、自らの世界観を墨守しようとするのか。なぜそこに「新たな一面が見えた」という面白みを見出せないのか。
 まあ、僕だってこのようなことを書いたり口にすることによって、自らの世界観を固く守りたい人に対して「それは面白くない」というようなことを言っているのだから、すっかり自家撞着に陥っているといえよう。いわば僕は「裏切られてもがっかりする前に新たな面白みを探せないか」という世界観を固持しているのだ。こういう無限に問答が続きそうになったときは、その議論は打ち切るのが吉である。結論はまた今度(出ないかもしれないけど)。

 とにかく僕は僕にとってのカヌレになりたいとおもっている。僕が人から抱かれている印象を絶えず裏切っていきたいとおもっている。だからこそこの百汁百菜でもあらゆる話題を提供できればとおもっている。観ているアニメや特撮、今プレイしているゲームなど、サブカルチャー・ポップカルチャーについての話題を度々出すのもその一環である。それでがっかりするのは勝手だけど、そこに新たな面白みを感じてくれる人を僕は求めている。そのためにはまず、おいしいカヌレを用意しておかなければならない。けどそれはちょっとプレッシャーかもしれない。

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